M&Aを仲介者やFAに頼むときは、秘密保持契約と、仲介契約・FA契約を結びます。仲介契約・FA契約には、ほかの業者に頼めなくなる「専任条項」、紹介された相手と直接交渉できなくなる「直接交渉の制限」、契約が終わったあとの成約にも手数料がかかる「テール条項」などが入ることがあります。
この記事では、これらの条項と手数料の考え方を、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)(以下、ガイドライン)と「中小M&A専門人材(個人)向け 使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」(以下、スキルマップ)に沿って整理します。中小M&A資格試験に向けたシリーズの7本目です。仲介とFAの違いと、契約前の重要事項説明の項目は、3本目の記事で説明しています。
秘密保持契約(NDA)は誰と、いつ結ぶか

ガイドラインは、秘密保持契約を「秘密保持を確約する趣旨で締結する契約」としています。結ぶ場面は2つあります(ガイドラインp.20)。
- 買い手(譲り受け側)が、ノンネーム・シートを見て関心を持ち、もっと詳しい情報を得るために、売り手(譲り渡し側)と結ぶ
- 売り手や買い手が、仲介者・FAと結ぶ。この場合は、仲介契約・FA契約の中に秘密保持条項として含められることが多い
結ぶのは、情報を受け取る前です。スキルマップは、情報を入手する際には当事者と秘密保持契約を結ぶことが求められる、としています(スキルマップp.22)。ヒアリングの段階で結ばない場合は、依頼者から得られる情報が限られる点にも注意が要ります(同p.27)。
M&Aの話を社内や取引先に知らせる時期についても、ガイドラインは、一部の関係者を除き「原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結後)に知らせるべきである」としています(ガイドラインp.31)。
NDAに書くことと、相談先を外しておく理由
スキルマップは、秘密保持契約の内容として、次のものを明確にすることを求めています(スキルマップp.25・58)。
- 秘密保持が求められる情報の定義・範囲
- 秘密保持の期間
- 秘密保持に違反した場合の扱い
売り手と買い手の間の秘密保持契約は、秘密保持の観点から、原則として売り手と買い手が直接結ぶべきだとされています(同p.58)。
もう1つ大事なのが、相談先の扱いです。スキルマップは、依頼者が士業などの専門家、事業承継・引継ぎ支援センター、保証や担保を解除する金融機関などに意見を求められるよう、「これらの相談先を秘密保持契約の対象から除外することが求められる」としています(同p.25)。相談先が外れていないと、契約の内容を顧問の税理士や事業承継・引継ぎ支援センターに相談しにくくなります。
秘密保持契約に、直接交渉の制限・専任条項・テール条項などの重要な事項が入る場合は、仲介契約・FA契約を結ぶ前の説明に準じた対応をすることが望ましい、とされています(同p.25、ガイドラインp.86)。仲介契約とは別の秘密保持契約にも、直接交渉の制限に関する条項が設けられていることがあります(ガイドラインp.40)。
専任条項:セカンド・オピニオンと契約期間
専任条項は、依頼者が並行してほかの仲介者・FAに依頼することを禁じる条項です。同じ候補先に複数の業者から打診がいくと、相手の心証を害したり、売り手の情報が広がったりします。ガイドラインは、それを防ぐ点で「一定の合理性」があるとしています(ガイドラインp.103)。
一方で、依頼者が業者の助言に疑問を持っても、ほかの専門家に相談できなくなるおそれがあります。そのためガイドラインは、M&A専門業者に対して次のことを求めています(ガイドラインp.103〜104)。
- 専任条項の対象範囲は「可能な限り限定すべき」。妨げる合理的な理由がなければ、ほかの支援機関にセカンド・オピニオンを求めることを「許容すべき」
- 専任条項を設けるなら、契約期間を「最長でも6か月~1年以内を目安として定めるべき」
- 依頼者がいつでも中途解約できることを明記する条項なども「設けることが望ましい」
直接交渉の制限:相手・目的・期間を限る
直接交渉の制限は、依頼者が、業者を通さずに候補先と直接交渉・接触することを禁じる条項です。交渉の窓口を業者に一本にすることで交渉が円滑になりうる点で、それ自体は一定の合理性があるとされています。ただ、範囲が広すぎると、依頼者が自分で見つけた相手とのM&Aや、ふだんの取引まで妨げられます。ガイドラインは、次のように限定すべきだとしています(ガイドラインp.104、p.40)。
| 限定のしかた | ガイドラインの考え方 |
|---|---|
| 相手 | 業者が関与・接触し、紹介した候補先のみ |
| 目的 | M&Aに関する目的に限る。ふだんの取引まで一律に禁じない |
| 期間 | 仲介契約・FA契約が終了するまで |
相手の範囲には例外があります。依頼者が「自ら候補先を発見しないこと」と「自ら発見した候補先と直接交渉しないこと」を明示的に了解している場合です(ガイドラインp.104)。
契約前の説明を受けて納得できず、業務や手数料について交渉を申し入れた場合、仲介者・FAは「誠実に対応を検討しなければならない」とされています(ガイドラインp.91)。条項の範囲が広すぎると感じたら、契約の前に申し入れることができます。
テール条項:2〜3年、ネームクリアした相手だけ
テール条項は、M&Aが成立しないまま契約が終わったあと、一定の期間(テール期間)内に、その業者が関与した相手とM&Aが成立したら、業者が手数料を受け取れるとする条項です。ガイドラインは、次の目安を示しています(ガイドラインp.105)。
- テール期間は「最長でも2年~3年以内を目安とすることが望ましい」
- 対象は、業者が関与・接触し、紹介した買い手に限る。ロングリスト・ショートリストやノンネーム・シートを見せただけの相手は対象とすべきでなく、少なくともネームクリア(買い手に企業概要書を送り、売り手の名前を明かすこと)をした相手に限るべき
- 専任でない契約で、売り手が別の業者を選んで成約した場合、選ばれなかった業者がテール条項を根拠に手数料を「請求すべきではない」
手数料の4種類と、基準額で変わる成功報酬
ガイドラインは、仲介者・FAの手数料には「一般的な法規制がなく」、料金体系は各業者が決めるとしたうえで、多く見られる4つを整理しています(ガイドラインp.63)。
| 種類 | いつ発生するか |
|---|---|
| 着手金 | 主に契約を結んだとき |
| 月額報酬(リテーナーフィー) | 月ごとに定額で |
| 中間金(マイルストーンフィー) | 基本合意のときなど、完了前の一定の時点で。成功報酬の内金とすることが多い |
| 成功報酬 | 主にクロージングなどの案件完了時 |
成功報酬は、次の3つのどれかを「基準となる価額」にして計算することが多いとされています(ガイドラインp.64)。
- 譲渡額:譲り渡した金額そのもの
- 移動総資産額:主に譲渡額に負債額を加えた額。同じ譲渡額でも、借入金が多いほど手数料が高くなる
- 純資産額:資産と負債の差額。売り手が債務超過だとゼロ円以下になるので、ほかの基準を使うことが多い
計算には、基準となる価額を階層に分け、階層ごとの割合をかけて合計するレーマン方式が多く使われます。ガイドラインの例は、5億円以下の部分が5%、5億円超10億円以下の部分が4%などです(ガイドラインp.64〜65)。小さな会社では成功報酬が小さくなるため、最低手数料を設けている業者が多いとされています(同p.65)。ガイドラインは、階層ごとの割合だけでなく、最終的に払う「絶対額」を確かめることが重要だとしています(同p.69)。
クイズ:手数料とテール条項
次の材料で考えます。金額は税抜です。
- 売り手:株式を譲渡額5億円で譲渡。会社の負債は5億円
- 成功報酬:レーマン方式(5億円以下の部分5%、5億円超10億円以下の部分4%)
- 中間金:50万円(成功報酬の内金)
- 最低手数料:1,000万円
- 業者の業務期間:1年
Q1. 成功報酬の基準が「譲渡額」の場合と「移動総資産額」の場合で、手数料の総額はそれぞれいくら?
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譲渡額が基準なら、5億円×5%=2,500万円です。
移動総資産額が基準なら、譲渡額5億円+負債5億円=10億円が基準になり、5億円×5%+5億円×4%=2,500万円+2,000万円=4,500万円です。
中間金50万円は成功報酬の内金なので、総額は増えません。最低手数料はどちらも上回っているので使いません。業務期間も使いません。
移動総資産額の計算は、ガイドラインの事例2(p.67)と同じ条件です。同じ取引でも、基準となる価額の違いで2,000万円変わります。
Q2. 専任の仲介契約が終わって1年後、売り手が、その業者からノンネーム・シートを見せられただけの会社と成約した。テール条項で手数料を請求できる対象にすべき?
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対象とすべきではありません。ガイドラインは、ノンネーム・シートの提示だけにとどまる相手はテール条項の対象とすべきでなく、少なくともネームクリアをした相手に限るべきだとしています(p.105)。
まとめ
- 秘密保持契約は、詳しい情報を受け取る前に結ぶ。定義・範囲、期間、違反した場合の扱いを明確にし、士業・センター・金融機関などの相談先は対象から外す
- 専任条項は範囲を限り、セカンド・オピニオンを許す。契約期間は最長でも6か月〜1年以内が目安で、中途解約の条項も設けることが望ましい
- 直接交渉の制限は、紹介された候補先・M&Aの目的・契約が終わるまで、に限る
- テール期間は最長でも2年〜3年以内が目安。対象は少なくともネームクリアした相手に限る
- 手数料は着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の4種類。成功報酬は基準となる価額で大きく変わるので、最終的に払う絶対額で比べる
次の記事では、親族内承継の全体像を取り上げています。シリーズの一覧は事業承継・M&Aのまとめページにあります。
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