M&A仲介とFAの違いは、誰と契約し、誰から手数料を受け取るかです。M&A仲介者は売り手(譲り渡し側)と買い手(譲り受け側)の両方と契約し、FA(フィナンシャル・アドバイザー)は片方とだけ契約します。
この記事では、M&A仲介とFAの違いを整理したうえで、M&A仲介に「利益相反のおそれ」があると言われる理由と、仲介者に求められている措置、契約の前に受ける「重要事項説明」で確かめることを、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」に沿って説明します。中小M&A資格試験に向けたシリーズの3本目です(シリーズの全体は事業承継・M&Aの記事一覧)。
M&A仲介とFAの違い

| 項目 | M&A仲介者 | FA |
|---|---|---|
| 契約の相手 | 売り手と買い手の両方 | 売り手か買い手のどちらか一方 |
| 手数料 | 双方から受け取るのが通常 | 契約した一方から受け取る |
| 役割 | 双方の意向をまとめ、M&Aの成立をめざして助言・調整する | 依頼者にとって有利な条件でのM&A成立をめざして助言・交渉する |
| 向く場面 | 有利な条件だけでなく、双方とのやりとりを通じて円滑に進めることを重視する場合 | 譲渡額を最大にしたい入札や、株主・債権者に最善の取引だったと説明する必要がある場合 |
仲介者は双方から依頼を受けているので、どちらか一方の利益だけを優先することはできません。FAは一方だけの味方なので、依頼者に有利な条件を追いかけられます(ガイドライン第1章Ⅱ3(2)-1②「仲介者・FAの比較」、p.42)。
ガイドラインは、中小M&Aの実務ではFAより仲介者の形のほうが多く使われている、と書いています。そのうえで、仲介者という業態を不適切と決めつけるのは現実的ではないとして、利益相反のリスクを小さくするための措置を仲介者に求めています(p.98〜99)。
M&A仲介に利益相反のおそれがある理由
売り手と買い手は、M&Aの成立という目的は同じでも、条件では利益がぶつかります。たとえば譲渡額は、売り手には高いほうが、買い手には安いほうが望ましいものです。
仲介者は、その両方から依頼を受けて調整する立場です。ガイドラインは、次のような構造的なリスクを挙げています。
- 買い手側に寄る動機:買い手は、次のM&Aでもまた依頼してくれる「リピーター」になりうる。そのため、買い手の利益を優先して取引をまとめる動機がある
- 売り手側に寄る動機:手数料が譲渡額に連動する場合は、逆に、譲渡額を上げて売り手の利益を優先する動機がある
なお、利益相反があるからといって、ただちに違法になるわけではありません(p.98)。大事なのは、そのリスクを仲介者がどう管理しているかです。
M&A仲介者に求められる3つの措置
ガイドラインは、仲介者が利益相反のリスクを最小限にするため、最低限、次の措置をとる必要があるとしています(第2章Ⅱ5、p.99)。
- 売り手・買い手の両方と契約する仲介者であること(両方から手数料を受け取る場合はその旨)を、両方に伝える
- 企業価値の評価(バリュエーション)やデュー・ディリジェンス(買収前の調査、DD)のように、一方の意向に寄りやすい工程の結論を、仲介者が決めない。必要に応じて士業などの専門家の意見を求めるよう、依頼者に伝える
- 仲介契約を結ぶ前に、両者の利益がぶつかると想定される事項を、それぞれに明示的に説明する。その後に利益がぶつかる事項の情報(一方にだけ有利・不利な情報を含む)を知ったときも、それぞれに適時に開示する
契約書に「しない」と書かなければならない行為
さらに、仲介者は少なくとも次の行為をしてはならず、しないことを仲介契約書に仲介者の義務として定めなければならない、とされています(p.99〜100)。
- 買い手から追加の手数料を受け取り、その買い手に便宜を図る(ニーズに合わないマッチングを優先する、不当に安い譲渡額に誘導する など)
- リピーターになる依頼者を優遇し、便宜を図る
- 希望の譲渡額より高く(買い手なら低く)成立したときに、正規の手数料とは別に、その差額の一定割合を報酬として求める
- 一方から伝えるよう頼まれたことを相手に伝えない、または一方が言っていないことを偽って伝える
- 一方にとってだけ有利・不利な情報を知ったのに、その当事者に伝えずに隠す
契約の前に受ける「重要事項説明」
仲介者・FAは、契約を結ぶ前に、契約に関する重要な事項を書いた書面(メールなどでの提供も含む)を渡して説明しなければなりません(第2章Ⅱ4(2)、p.86)。説明を受けるのは、契約を結ぶ権限のある人です。会社なら代表者か、契約について委任された人です。説明のあとは、内容を理解して判断できるよう、十分な検討時間をもらうべきとされています。
書面で説明を受ける主な項目は次のとおりです(p.86〜87)。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 仲介かFAか | 両方と契約する仲介者か、一方だけのFAか。仲介者は両方から手数料を受け取るか |
| 提供する業務の範囲 | 評価・相手探し・交渉など、工程ごとに何をするか。DDや企業価値評価をしない場合はその旨 |
| 担当者 | 保有資格、経験年数、成約実績 |
| 手数料 | 算定基準、金額、最低手数料、支払い時期。仲介者なら相手方の手数料も |
| 手数料以外の費用 | 費用の種類と支払い時期 |
| 秘密保持 | 秘密にする事実、専門家や事業承継・引継ぎ支援センターに相談するときの扱い |
| 直接交渉の制限・専任条項・テール条項 | 制限される相手や期間、セカンド・オピニオンを受けられるか |
| 契約期間・解除 | 期間と更新、中途解約できるか |
| 責任(免責) | 損害賠償の責任が生じる条件と範囲 |
ほかに、契約の範囲がクロージング(取引の完了)までなら、その後の支援は難しいことも説明されます。また、当事者の間で起きた争いの解決を支援することは、弁護士法72条の「非弁行為」にあたるおそれがあるので、その旨も説明しなければならないとされています。
手数料の計算や、専任条項・直接交渉の制限・テール条項の目安は、1本目の記事(宮城県事業承継・引継ぎ支援センター)で説明しています。登録された仲介者・FAの手数料の決め方は、M&A支援機関登録制度のデータベースで比べられます。
クイズ:仲介者が受け取る手数料と、してはいけない行為
仲介者とFAで、受け取る手数料の合計がどう違うかを計算します。次の材料を使います(数字は例です)。
- 譲渡額:1億円
- 売り手が払う手数料:譲渡額の5%
- 買い手が払う手数料:譲渡額の5%
- FAの場合:売り手のFAは売り手からだけ受け取る
- 消費税は考えない
Q1. 仲介者が受け取る手数料の合計は? 売り手のFAが受け取る手数料は?
答えを見る
仲介者は1,000万円です。売り手から500万円、買い手から500万円を受け取ります。売り手のFAは、売り手からの500万円です。
仲介者が両方から手数料を受け取ることは、ガイドラインが禁じているものではありません。ただ、そのことを両方に伝え、両方の利益を不当に害さないことが前提です。
Q2. 売り手の希望額は8,000万円だった。仲介者が交渉して1億円で成立した。仲介者の対応として、ガイドラインで禁じられているものはどれ?
- 契約どおり、譲渡額1億円に5%をかけた手数料を受け取る
- 正規の手数料とは別に、希望額との差額2,000万円の10%を報酬として売り手に求める
- 成立前に、譲渡額の決め方について士業の意見を求めるよう両方に伝える
- 両方から手数料を受け取ることを、契約前に両方に伝えておく
答えを見る
2です。希望した譲渡額との差額の一定割合を、正規の手数料とは別に報酬として求めることは、仲介者がしてはならない行為として、仲介契約書に定めなければならないとされています(p.99〜100)。
1は契約で決めた手数料なので問題ありません。3と4は、仲介者に求められている措置そのものです。
まとめ
- M&A仲介者は売り手と買い手の両方と、FAは一方とだけ契約する。仲介者は一方の利益だけを優先できない
- 仲介に利益相反のおそれがあるのは、買い手がリピーターになりうることや、手数料が譲渡額に連動することから。利益相反はただちに違法ではないが、管理が求められる
- 仲介者は、両方と契約していることの開示、評価やDDの結論を決めないこと、利益がぶつかる事項の説明と開示の3つの措置をとる
- 差額の一定割合を報酬として求めることなどは、してはならない行為として仲介契約書に定める
- 契約前の重要事項説明は書面で、権限のある人が受け、十分な検討時間をとる。手数料と、仲介者なら相手方の手数料も確かめる
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