収益性、効率性、生産性、安全性。決算書の数字を1つずつ見ていっても、「で、うちの会社は全体としてどうなのか」は、指標を並べただけではつかみにくいものです。
数字を1枚にまとめて見るのが、レーダーチャートです。国が無料で用意しているローカルベンチマーク(ロカベン)を使えば、決算書の数字を入れるだけで、6つの指標の点数とレーダーチャートが出てきます。
私も支援先で、決算書の数字を入れてロカベンを作ってきました。計画づくりや申請で使い、金融機関との話にも使っています。この記事では、これまでの記事と同じ小さなラーメン店の数字を入れて、実際に何点になるかを見てみます(数字は架空です)。
ローカルベンチマークとは:国が用意した「企業の健康診断」
経済産業省は、ローカルベンチマークを「企業の経営状態の把握、いわゆる「企業の健康診断」を行うツール」と説明しています(経済産業省「ローカルベンチマーク」)。シートは3枚組です。
- 6つの指標(財務面)
- 商流・業務フロー(非財務面)
- 4つの視点(非財務面)
シートは経済産業省のページからExcelで無料でダウンロードでき、中小企業庁のミラサポplusでも作れます。経済産業省のページには「各種補助金等の申請にも活用されています」とあります。
財務の6つの指標
6つの指標と計算式は次のとおりです。ロカベンシート(2022年度版)の計算式から書き起こしました。
| 指標 | 見るもの | 計算式 | くわしい記事 |
|---|---|---|---|
| ①売上増加率 | 売上持続性 | 売上高÷前期の売上高−1 | Zチャート |
| ②営業利益率 | 収益性 | 営業利益÷売上高 | 増収減益 |
| ③労働生産性 | 生産性 | 営業利益÷従業員数 | 賃上げと労働分配率 |
| ④EBITDA有利子負債倍率 | 健全性 | (借入金−現金・預金)÷(営業利益+減価償却費) | 返済原資 |
| ⑤営業運転資本回転期間 | 効率性 | (売掛金+受取手形+棚卸資産−買掛金−支払手形)÷月の売上高 | お金が残らない理由 |
| ⑥自己資本比率 | 安全性 | 純資産÷(純資産+負債合計) | 自己資本比率の目安 |
③の労働生産性は、付加価値ではなく営業利益で計算します。シートの注記でも「簡易的に計算したもの」とされています。従業員数は正社員で数え、パートや派遣、契約社員は入りません。役員を兼ねる従業員は入ります。
点数の付け方:同じ業種・同じ規模の会社と比べる
6つの指標は、それぞれ1〜5点で採点されます。比べる相手は、同じ業種・同じ規模の会社です。
- 上位7%:5点
- 続く24%:4点
- 続く38%:3点
- 続く24%:2点
- 下位7%:1点
6つで30点満点。24点以上がA、18点以上がB、12点以上がC、12点未満がDです。
基準のもとになっているのは、帝国データバンクが持つ約37,000社の、2019年4月〜2022年2月の決算です(財務指標の評価付与方法)。コロナ禍の決算が中心なので、経済産業省も「多くの業種で評点の基準となる閾値が低下」したと書いています(2018年度版からの変更点)。飲食業の影響は大きく、ロカベンシートの飲食業・小規模事業者の営業利益率の中央値は、マイナス9.0%です。
上位7%に入っているかは、「境目の数字」と比べるだけ
「上位7%」と言われても、自分の会社が何%の位置にいるかは分かりません。でも、ほかの会社の数字を調べる必要はありません。経済産業省が、業種・規模ごとに約37,000社を並べて、「ここから上なら5点」という境目の数字を先に計算しています。
ロカベンシートの中には、指標ごとに4本の境目が入っています。自分の数字がどの境目を超えるかで、点数が決まります。比べるのはシートが自動でやってくれます。
飲食業・小規模事業者の境目は、次のとおりです。ロカベンシート(2022年度版)の「【参照】」シートから書き起こしました。
| 指標 | 5点 | 4点 | 3点 | 2点 | 1点 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①売上増加率 | +8.7%以上 | −6.3%以上 | −16.7%以上 | −30.6%以上 | −30.6%未満 |
| ②営業利益率 | −0.48%以上 | −5.4%以上 | −12.8%以上 | −23.3%以上 | −23.3%未満 |
| ③労働生産性 | −5.5万円以上 | −138.5万円以上 | −310.4万円以上 | −585.0万円以上 | −585.0万円未満 |
| ④EBITDA有利子負債倍率(低いほど良い) | 3.7倍未満 | 11.6倍未満 | 27.6倍未満 | 58.8倍未満 | 58.8倍以上 |
| ⑤営業運転資本回転期間(低いほど良い) | −0.31か月未満 | 0.02か月未満 | 0.45か月未満 | 1.18か月未満 | 1.18か月以上 |
| ⑥自己資本比率 | 49.8%以上 | 12.9%以上 | −5.5%以上 | −38.4%以上 | −38.4%未満 |
④と⑤は、低いほど良い指標です。また④は、借入金を現金・預金で全部返せるなら5点、営業利益+減価償却費が0以下なら1点になります。
たとえば②営業利益率は、5点の境目がマイナス0.48%です。黒字なら、それだけで5点になります。業種や規模が変わると、境目の数字も変わります。
ラーメン店の数字で、6つの指標を出してみる
例は、返済原資の記事と同じ、小さな株式会社のラーメン店です。社長1人とアルバイトで回していて、正社員は社長だけ。ロカベンでは小規模事業者に入ります。
- 1か月の売上:135万円(前の年は月140万円)
- 1か月の営業利益:9万円、減価償却費:5万円
- 借入金の残り:1,800万円、現金・預金:300万円
- 食材の在庫:15万円、買掛金:30万円(売掛金はなし)
- 純資産:200万円、総資産:2,100万円
計算は1か月の数字で行い、年の数字が要る指標だけ12倍します。
Q1. 営業利益率は?
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6.7%です。月9万円÷月135万円。飲食業・小規模の5点の境目はマイナス0.48%なので、5点です。
Q2. 借入金の残りを、月の稼ぎで返すと何か月かかる?
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約107か月、年にすると約8.9年です。月の稼ぎは、営業利益9万円+減価償却費5万円=14万円。借入金1,800万円から現金・預金300万円を引いた1,500万円を、14万円で割ると約107か月です。
この「何年分か」が、④EBITDA有利子負債倍率の8.9倍です。飲食業・小規模では、5点の境目が3.7倍未満、4点の境目が11.6倍未満なので、4点です。
また、以下のように求めることもできます。1年の数字で計算する方法です。
1,500万円÷(年の営業利益108万円+年の減価償却費60万円)≒8.9倍
Q3. 6つの指標の合計は何点?
答えを見る
25点で、ランクAです。内訳は下の表のとおりです。

売上増加率はマイナス3.6%で、4点の境目のマイナス6.3%を上回るので4点。労働生産性は、年の営業利益108万円÷正社員1人で108万円になり、5点の境目のマイナス5.5万円を上回るので5点です。営業運転資本回転期間は、現金で売って食材は後払いなのでマイナス0.1か月。4点の境目の0.02か月より短いので4点です。自己資本比率は9.5%で、4点の境目の12.9%に届かず3点でした。

点数の読み方:Aでも、お金が足りているとは限らない
このラーメン店は25点でランクAです。でも、返済原資の記事で見たとおり、毎月の返済20万円に対して、返済に回せるお金は11万円しかありません。通帳のお金は、月9万円ずつ減っています。
点数は、同じ業種・同じ規模の会社の中での位置を示すものです。基準がコロナ禍の決算なので、飲食業では、黒字であるだけで高い点が付きやすくなっています。経済産業省も、点数は「業種基準値からの乖離を示すもの」で、「点数の高低が必ずしも企業の評価を示すものではありません」と書いています((企業向け)ローカルベンチマークの活用に向けて)。
ロカベンは、点数で合否を付けるものではなく、話の入り口です。低い指標から、なぜそうなっているのかを考えます。このお店なら、いちばん低い⑥自己資本比率(3点)と、点数には出ない返済のお金から考えます。金融機関との話に使うときも、点数と合わせて、低い指標の理由を説明できるようにしておきます。
財務以外の2枚のシートも使う
ロカベンの残り2枚は、数字に出ない部分を見るシートです。
- 商流・業務フロー:仕入先から得意先までの流れと、お客さんに選ばれている理由
- 4つの視点:経営者、事業、企業を取り巻く環境・関係者、内部管理体制
レーダーチャートで低かった指標の理由を探すときに、この2枚を使います。
今週やること
- 経済産業省のページから、ロカベンシートをダウンロードする
- 直近3期の決算書から、売上・営業利益・減価償却費・借入金などを入力する
- レーダーチャートで、いちばん点数の低い指標を1つ選ぶ
- その指標のくわしい記事を読んで、なぜ低いかを考える
業界平均との比べ方は業界平均の記事に、財務分析の全体の考え方は中小企業向け 財務分析の勘所と考え方にまとめています。
まとめ
- ローカルベンチマーク(ロカベン)は、経済産業省の「企業の健康診断」ツール。無料で使える
- 財務の6つの指標:売上増加率・営業利益率・労働生産性・EBITDA有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率
- 同じ業種・同じ規模の会社と比べて1〜5点。30点満点で、24点以上がA
- 基準はコロナ禍の決算。飲食業では、黒字なら高い点が付きやすい
- 点数は合否ではなく話の入り口。Aでも返済のお金が足りているとは限らない
ロカベンは、一度作って終わりではなく、毎年の決算ごとに作り直して、レーダーチャートの形の変化を見ていくものです。
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