M&Aの手法には、前回取り上げた株式譲渡・事業譲渡・会社分割のほかに、第三者割当、株式交換・株式移転・株式交付、合併があります。また、事業承継には、M&Aのほかに、親族への承継と、役員・従業員への承継があります。
この記事では、これらの手法の特徴と注意点を、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)(以下、ガイドライン)と「中小M&A専門人材(個人)向け 使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」(以下、スキルマップ)、会社法の定義に沿って整理します。中小M&A資格試験に向けたシリーズの6本目です。前回の記事(株式譲渡・事業譲渡・会社分割)とあわせて読むと、手法の全体がそろいます。
事業承継とM&Aの全体像

ガイドラインは、中小M&Aを「後継者不在の中小企業の事業を、M&Aの手法により、社外の第三者である後継者が引き継ぐ場合」としています。そのうえで、経営者の親族による承継(親族内承継)と、自社の役員・従業員による承継(従業員承継)は、中小M&Aに含めないとしています(ガイドラインp.16)。
中小企業は、後継者をまず親族から探し、親族にいなければ自社の役員や従業員から探すことが多い、とガイドラインは書いています。親族にも社内にもいない場合に、社外の第三者に引き継ぐのが中小M&Aです(ガイドラインp.27)。
第三者割当:会社にお金が入る
第三者割当は、会社が新しく株式を発行して、特定の相手に引き受けてもらう手法です。スキルマップは、株式取得の対価が対象会社に入るため、対象会社に資金が必要な場合に有効だとしています。デメリットは、新株発行の手続や法務手続にかかる費用の負担が大きいことです(スキルマップp.32)。
注意点として、会社に資金の必要がないのに、取締役が会社の支配権を保つ目的で第三者割当をすると、不公正な発行として株主から差止めを請求されるリスクがあります(スキルマップp.32)。
前回の株式譲渡では、代金は株主(経営者個人)が受け取りました。第三者割当では会社に入る、という違いがあります。
株式交換・株式移転・株式交付:株式で親子会社になる
3つとも、株式を使って親会社と子会社の関係をつくる手法です。会社法は次のように定めています(会社法2条)。
| 手法 | 会社法の定義(要点) |
|---|---|
| 株式交換 | 株式会社が、発行済株式の全部を、他の株式会社または合同会社に取得させる |
| 株式移転 | 1つまたは2つ以上の株式会社が、発行済株式の全部を、新しく設立する株式会社に取得させる |
| 株式交付 | 株式会社が、他の株式会社を子会社にするために、その株式を譲り受け、譲渡した人に対価として自社の株式を交付する |
株式交換・株式移転は相手の株式の全部を取得し、株式交付は子会社にする(全部とは限らない)ところが違います。
スキルマップは、メリットとして、完全な親会社・子会社の関係をつくれることに加え、交換・移転で現金の対価がいらないことを挙げています。デメリットは、法人格は残るものの、自社の子会社や兄弟会社の関係になるため、あとから補償を請求するのが難しくなることです(スキルマップp.33)。
合併:2つの会社が1つになる
合併には、吸収合併と新設合併があります。
- 吸収合併:合併で消える会社の権利義務の全部を、合併後も残る会社に引き継がせる
- 新設合併:2つ以上の会社が合併し、消える会社の権利義務の全部を、合併で新しく設立する会社に引き継がせる
定義は会社法2条です。実務では、1社が残り(存続会社)、ほかの会社(消滅会社)の権利義務を一切引き継ぐ吸収合併が多く使われています(スキルマップp.33)。
向いている場面とメリット・デメリット
合併は、会社を一体にして、統合の効果を早く出したい場合に選ばれる傾向があります。同じ事業をしている会社と合併すると、経営の効率化などの効果が見込まれます。メリットは、M&Aのあとにスピード感のある事業統合ができること、対価として買い手の株式を渡す場合は買収資金がいらないことです。デメリットは、違う企業文化を短い期間でまとめる必要があり、特に消滅会社の側で抵抗感が出る場合があることです(スキルマップp.33)。
手続:特別決議と債権者保護手続
- 簡易合併(存続会社が渡す財産の額が、純資産額の5分の1以下)と、略式合併(親会社が子会社の議決権の90%以上を持つ親子会社間の合併)を除き、存続会社と消滅会社のそれぞれで株主総会の特別決議が必要
- 存続会社と消滅会社は、債権者保護手続として、官報への公告と、知れている債権者への個別の催告が必要
いずれもスキルマップp.33の記載です。
M&A以外の承継:親族内承継と従業員承継
スキルマップは、M&Aが依頼者の本当の利益につながるかという観点から、第三者への承継(M&A)以外の事業承継もありうることに注意するよう求め、支援者が持つべき基本的な知識として次のものを挙げています(スキルマップp.29)。
| 承継のしかた | 知っておくこと |
|---|---|
| 親族内承継 | 自己株式(金庫株)の活用方法・目的(後継者の納税資金の確保や、少数株主からの買取りなど)と注意点/種類株式(配当優先・無議決権株式、拒否権付株式)の活用方法・目的と注意点 |
| 従業員承継 | MBO(マネジメント・バイアウト)と相続の違い、メリット、実施方法(資金の調達方法など)/従業員持株制度(従業員が自社の株式を取得・保有する制度)の活用 |
ガイドラインは、従業員承継を直接の対象としていないものの、共通する部分ではガイドラインの考え方に準じた対応を期待する、としています(ガイドラインp.14)。親族内承継や従業員承継の相談先として、国が設置する事業承継・引継ぎ支援センターがあります(ガイドラインp.25)。宮城県のセンターはこちらの記事で紹介しています。
手法の一覧
| 手法 | ひとことで | 対価・お金の行き先 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 株主が株式を渡す | 株主(経営者個人) | 簿外債務も引き継ぐ |
| 事業譲渡 | 会社が事業を渡す | 会社 | 契約・許認可は個別に |
| 会社分割 | 事業を包括して引き継ぐ | 事業譲渡と同様の効果 | 特別決議・労働契約承継法 |
| 第三者割当 | 新しい株式を引き受けてもらう | 対象会社 | 不公正発行のリスク |
| 株式交換・株式移転・株式交付 | 株式で親子会社になる | 交換・移転は現金対価が不要 | 事後の補償請求が難しい |
| 合併 | 2つの会社が1つになる | 株式を渡せば買収資金が不要 | 特別決議・債権者保護手続 |
前回の記事とこの記事の内容をまとめた表です。
クイズ:どの手法?
次の材料で考えます。
- C社:設備の入れ替えに3,000万円が必要。銀行からの追加の借入は難しい
- D社:C社と同じ地域で同じ事業をしている。統合して早く効率を上げたい
- E社:社長の長男が後を継ぐ予定。株主に、社長の兄弟が少し持っている
- 3社とも:創業30年
Q1. C社に資金を入れながら資本提携したい相手には、株式譲渡と第三者割当のどちらが合う?
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第三者割当です。株式取得の対価が対象会社(C社)に入るので、C社に資金が必要な場合に有効です(スキルマップp.32)。株式譲渡では、代金は株主に入り、会社には入りません。
創業年数は使いません。
Q2. D社がC社と一体になって統合効果を早く出したいとき、スキルマップが「選択される傾向にある」とする手法は? E社の承継は、中小M&Aに含まれる?
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D社には合併です。会社を一体化し、統合効果を早期に実現したい場合に選ばれる傾向があり、同じ事業の会社との合併は経営の効率化が見込まれます(スキルマップp.33)。
E社の長男への承継は親族内承継で、ガイドラインの定義では中小M&Aに含まれません(ガイドラインp.16)。少数株主(社長の兄弟)からの株式の買取りには、自己株式の活用が知識として挙げられています(スキルマップp.29)。
まとめ
- 第三者割当は、対価が対象会社に入る。資金が必要な会社に向くが、支配権維持のための発行は不公正発行として差止めのリスク
- 株式交換・株式移転・株式交付は、株式で親子会社の関係をつくる。交換・移転は現金の対価がいらないが、あとからの補償請求が難しい
- 合併は吸収合併が多い。簡易・略式を除き両社で特別決議、債権者保護手続(官報公告と個別の催告)が必要
- 親族内承継と従業員承継は、ガイドラインの定義では中小M&Aに含めない。支援者は、M&A以外の承継もありうることに注意する
- 親族内承継では自己株式・種類株式、従業員承継ではMBO・従業員持株制度が、知っておくべき知識
秘密保持契約・仲介契約と重要事項説明は、M&Aの秘密保持契約と仲介契約の記事に書いています。シリーズの一覧は事業承継・M&Aのまとめページにあります。
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