デューデリジェンスとは?M&Aのデューデリジェンス(DD)の種類と進め方、データルームと売り手の準備

窓際の会議室の木の机に、無地の書類の束が積まれ、ノートパソコンと卓上ランプ、本の上に湯のみが置かれている

デューデリジェンス(DD)とは、M&Aで、売り手(譲り渡し側)の会社が抱えるさまざまなリスクなどを詳しく調べるために、主に買い手(譲り受け側)が、FAや士業などの専門家に頼んで行う調査です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(以下ガイドライン)では「デュー・ディリジェンス(DD)」と書かれています(p.21)。

この記事では、デューデリジェンスの目的、種類、進め方、データルーム、売り手の準備を、ガイドラインと、中小企業庁の「中小M&A専門人材のスキルマップ」(2025年4月、以下スキルマップ)に沿って整理します。中小M&A資格試験に向けたシリーズの記事です。試験科目一覧(現状案)では、DD全体のうち「実施するDDの種類の検討」に、優先して出題される印(●)が付いています。

目次

デューデリジェンスの目的

DDは、基本合意のあと、最終契約の前に行う工程です。ガイドラインは、買い手が、売り手の財務・法務・ビジネス(事業)・税務などの実態を、専門家を使って調べる工程で、譲渡対価の金額を精査したり、分かった実態をもとに事業を改善したりする目的で行われる、としています(p.47)。どの調査をするかは、買い手の意向に従います。

ガイドラインは、DDが売り手・買い手の両方にとって重要だとして、それぞれの立場での意味を挙げています(p.47〜48)。

立場DDの意味
買い手客観的な資料をもとに、そもそもM&Aをすべきかを考えられる。する場合は、最終契約の内容・条件(譲渡額、表明保証、補償など)を調整して、M&Aのあとのトラブルを防げる。M&Aのあとの統合(PMI)に役立つ情報も得られる
売り手調査が十分にされないと、最終契約で売り手が負う義務(表明保証の範囲、補償の額や期間など)の負担が増えることにつながりうる

表明保証は、最終契約で売り手が「会社の状態はこうです」と約束し、違っていたら補償するという取り決めです。DDで調べ切れなかった部分を、表明保証で広く約束させられることになる、という関係です。

デューデリジェンスの種類

ガイドラインは、調べる項目はM&Aの規模や実施する人の意向などで違うとしたうえで、一般的には、資産・負債などを調べる財務DDと、株式・契約内容などを調べる法務DDなどから構成される、としています(p.21)。そのほかに、次のようなDDがあります。

DDの種類主に調べること・補足主な担い手(スキルマップp.84)
財務DD資産・負債など会計士・税理士など
税務DD財務DDに一部含まれることがある会計士・税理士など
法務DD株式・契約内容など弁護士
人事労務DD法務DDに一部含まれることがある弁護士・社会保険労務士・コンサルなど
ビジネス(事業)DDビジネスモデルなど中小企業診断士・コンサルなど
IT DD・環境DD―コンサルなど
知的財産(知財)DD・不動産DD―(スキルマップの例示にはない)

財務・税務DD、法務・人事労務DDの中身は、このシリーズの次の2回で取り上げます。

どのDDをするかの決め方

スキルマップは、DDの目的、種類ごとの重要性、売り手の状況(経営状況や事業規模など)、時間の制約(一定の期間内に終える必要があるなど)、物理的な制約(情報管理の都合でキーマンに会えない、売り手を訪問できないなど)を踏まえて、どのDDを行うかを考える必要がある、としています(p.82)。そのうえで、足りなすぎる、またはやりすぎのDDにならないよう、適切に助言することが求められます。

売り手に大きすぎる負担がかからないよう、売り手の状況や規模を踏まえた範囲にする必要もあります(p.82)。仲介者の場合は、利益相反を防ぐ観点から、実施するDDの最終的な決定は、買い手自身がする必要があります。

どこまで詳しく調べるかは、M&Aの手法でも変わります。ガイドラインは、株式譲渡は売り手の法人格がそのまま残るため、簿外債務(未払残業代など、貸借対照表の数字に表れない債務)や偶発債務(紛争の損害賠償など、将来発生しうる債務)のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なDDが行われる傾向にある、としています(p.48)。

中小M&Aでは簡易なDDで終えることもある

DDは、考えられるリスク全般を調べることもあれば、対象を絞って簡易に行うこともあり、調査の密度はさまざまです。ガイドラインは、中小M&Aの実務では、買い手が専門家の費用をかけて本格的なDDをせず、売り手の数年分の税務申告書の確認と、売り手の社長へのヒアリングなどの調査だけで終えることもある、としています(p.47)。

一方で、ガイドラインは、中小企業は一見問題なく経営されているように見えても、何らかの課題やリスクを抱えていることが少なくなく、売り手の社長自身がその潜在的な課題やリスクに気づいていないケースもある、としています(p.52)。そのため、社長へのヒアリングだけでリスクを評価することには限界があります。

スキルマップは、さらに、DDをせずにM&Aを決め、それが原因で買い手に損害が出た場合には、DDをせずにM&Aを実行した取締役の善管注意義務違反が問題になりうる、としています(p.82)。

こうした理由から、ガイドラインは、予算などの制約がある場合でも、調べる対象を絞るなどの工夫をして、実施する調査の内容を考えることが望ましい、としています(p.48)。仲介者・FAに向けては、DDをしないことを「認識の有無にかかわらず対応するリスク」に挙げ、DDが双方にとって重要なプロセスであることを依頼者に説明しなければならない、としています(p.96〜97)。

デューデリジェンスの進め方

スキルマップは、DD全般の流れを、方針の決定、体制の構築、調査の前の準備、調査の実施の4つに分けています(p.79)。ただし、この順番はあくまで一例で、実務では状況に応じて順番を入れ替えたり、並行したりする、としています(p.80)。

DD(デュー・ディリジェンス)の進め方の図。1 方針を決める:実施するDDの種類、スケジュール、個別のDDの範囲、DDを頼む専門家の選定。2 体制をつくる:売り手のDDチーム(キーマン・窓口の一本化)、買い手のDDチーム(窓口・事業の責任者・専門家)。3 調査の前の準備:データルームの設置(部屋かオンラインか)、専門家どうしの情報共有の手続。4 調査する:依頼資料リストの作成・依頼、開示資料の確認・Q&Aシート、社長へのインタビュー、現場の視察(店舗・工場)。4はDDを頼まれた専門家が行う。順番は一例で、案件によって前後したり並行したりする。DDの結果は、M&Aをするかどうか、譲渡額、表明保証・補償など最終契約の中身と、M&Aのあとの統合(PMI)に使われる

1. 方針を決める:スケジュールと範囲

スケジュールは、調べる項目ごとに作業量を見積もって作ります(p.82)。現地調査がある場合は、専門家を受け入れる人員や作業スペースの都合で日程が限られやすいので、早めに調整しておく必要があります。基本合意書に最終契約の時期の目途が書かれている場合は、それも考えます。DDのあとには、最終契約に向けた交渉の期間も必要です。

個別のDDの範囲は、買い手との間で、DDの目的、範囲、手続、報告の方法をすり合わせ、調査範囲とスケジュールをはっきり合意する必要があります(p.83)。買い手の意向と違う調査をして追加の調査が必要になったり、専門家が独断で範囲を狭めて重大なリスクを見逃し、損害賠償を請求されたりすることもある、とされています。

DDを頼む専門家は、買い手が選べるように助言します。専門的な知見やDDの経験に加えて、M&Aのあとの統合(PMI)の支援も受けられるかも、選ぶポイントになりうるとされています(p.84)。仲介者は、利益相反を防ぐ観点から、買い手が望まない限り、専門家を紹介すべきではありません。紹介する場合も、複数の候補を示すなどして、当事者が決められるようにします。

2. 体制をつくる:売り手と買い手のチーム

売り手の側では、社内の事情に詳しいキーマンを巻き込むことが重要ですが、秘密保持の観点から、どの範囲のキーマンを入れるかは、売り手の社長と相談して決めます(p.85)。専門家からの質問や依頼の整理、回答や資料の集約、進み具合の記録などを行う窓口を一本化し、情報の流れを決めておくことも求められます。

売り手のDD担当者が社内でする会話は、情報が漏れるもとになりやすいので、前もって秘密保持の大切さを説明しておきます。担当者でない従業員に、どこまで知られてよいかも事前に確かめておきます(p.85)。チームの例として、財務・経理を担当する役職者(財務DD・法務DDの質疑対応)、営業を担当する役職者(ビジネスDDの質疑対応)、M&Aの支援経験がある専門家が挙げられています。

買い手の側では、M&Aの窓口になる人に加えて、事業部の責任者が入ります。PMIを見据えると、経理・法務・人事などの部門からも人が入ることが望ましいとされています(p.85)。DDは短い期間に膨大な情報を集めて分析する作業なので、メンバーはできるだけほかの業務から外れられるよう配慮することが望ましい、とも書かれています。

3. 調査の前の準備:データルーム

データルームとは、DDに関わる人が見られる資料の保管場所です(p.86)。売り手の会議室や専門家の事務所などに資料を置く物理的なデータルームと、オンライン上のバーチャルデータルーム(VDR)があり、どちらにするか(または両方使うか)を考えます。

スキルマップは、物理的なデータルームにすることが多い場合として、次の5つを挙げています(p.86)。

  • 一部の資料のページ数が多い、または古くてデータにしにくい
  • 資料を持ち運ぶのが実務上難しい
  • 売り手と買い手の事務所が離れていない
  • 現場の状況を知る必要がある(特に製造業など)
  • 対面でのDDが必要(IT DD、環境DDなど)

物理的なデータルームでは、窓や扉の開け閉めで会話が漏れる、人の出入りから気づかれるといった管理の不備で、売り手の従業員にM&Aの検討が知られないよう、利用時間の制限、受付の締切時間、入室の事前届出などの運用ルールを決めて徹底します(p.86)。VDRでは、アクセス権限などの安全が確保された環境を使い、資料のやりとりもメールではなくその中で行うことが望ましいとされています。VDRはクロージングのあとに閉じますが、表明保証違反が分かったときに、どの資料をいつ開示したかを確かめられるよう、データを保存しておける仕組みが必要です。

4. 調査する:依頼資料リストとインタビュー

調査は、DDを頼まれた専門家が行います。まず、調査に必要な書類や質問をリストにして、売り手に依頼します(p.87)。スキルマップは、請求する資料の例として、営業報告書、財務諸表、税務申告書、販売費及び一般管理費の明細、販売計画の資料、投資の実績と計画、減価償却費の明細などを挙げています。

依頼のしかたについては、次のような点が挙げられています(p.87〜88)。

  • 最初にもらった資料で分かることは、売り手の負担を考えて頼まない
  • 最初のリストは、売り手との最初の顔合わせより前の早い段階で送ると、スケジュールを短くできる
  • 資料名、対象の年度、もらう形式、原本を見る必要があるかを書いて、行き違いを防ぐ
  • 複数の専門家の間で情報を共有し、同じ依頼や質問をできるだけ減らす
  • 仲介者や売り手のFAがいる案件では、専門家と売り手が直接やりとりすることは原則禁止が通例なので、仲介者・FAがリストを伝え、資料を受け取る
  • Q&Aシートには、質問の趣旨を分かりやすく書く。売り手が依頼の意図を分かって答えられるよう、意図や目的を補足する

売り手の社長へのマネジメントインタビューでは、リーダーシップ、経営の力、人柄、ビジョンの有無、事業へのコミットなど、書面だけでは分からないことを確かめます(p.88)。競合と比べた強み・弱み、会社の経緯、課題、これからの方向性などが、確かめる主な内容です。時間割や質問票は、前もって売り手に送っておくことが望ましいとされています。

売り手が準備しておくこと

ガイドラインは、DDでは、買い手が売り手に大量の資料を求めるのが一般的だとしています(p.95)。特に小規模な企業は、会計帳簿や各種の規程類が整っていないことが多いので、早い時期から、求められそうな書類やデータの整備を促す必要がある、と書かれています。

M&Aのことを社内にまだ話していない場合は、話していない役員や従業員に気づかれないように進める工夫が必要なので、売り手・買い手とも、専門家の指示を守ることが重要です(ガイドラインp.47)。スキルマップは、資料づくりやインタビューへの対応で売り手が疲れ切ってしまわないよう、気持ちの面も含めた支援が求められる、としています(p.80)。

仲介者・FAがDDでしてはいけないこと

DDは、一方の当事者の意向が反映されやすい工程です。そのため、売り手と買い手の両方から依頼を受ける仲介者は、DDを自ら行うべきではなく、DD報告書の結論を決めるべきでもありません(ガイドラインp.95)。ただし、DDを行う人の下で、売り手の開示資料の整理・作成を手伝ったり、DDのスケジュールを調整・管理したりすることは、調査の中身や評価・判断に影響しない範囲であればできます。仲介とFAの違いは仲介とFAの違いの記事で説明しています。

仲介者や売り手のFAは、売り手に大きすぎる負担がかからないよう調査対象を適切な範囲にし、DDの結果を売り手にもできるだけ開示するよう、買い手に働きかけることが望ましいとされています(ガイドラインp.95、スキルマップp.80)。

FAが自らDDを行う場合は、本来は弁護士の資格が必要な報告や、DDの結果を最終契約にどう反映するかの意思決定をしないよう注意します(スキルマップp.80)。また、DDを頼む専門家との契約締結の支援は非弁行為にあたるリスクがあり、弁護士をあっせんして手数料を受け取ることや、使う弁護士を指定することは、非弁提携にあたりうるとされています(p.81)。

確認問題

次の材料で考えます。

  • 売り手:仙台市の食品製造業。従業員25人。M&Aのことは、社長と経理部長しか知らない
  • 手法:株式譲渡
  • 買い手:B社。予算が限られているので、「DDはせず、社長へのヒアリングだけで決めたい」と言っている
  • 売り手の資料:決算書と税務申告書は3年分あるが、就業規則などの規程は整っていない

Q1. B社の「DDはせず、ヒアリングだけで決めたい」という意向に、ガイドラインに照らすとどう助言する?

答えを見る

中小企業は売り手の社長自身が気づいていないリスクを抱えていることもあり、社長へのヒアリングだけでリスクを評価するには限界があります(ガイドラインp.52)。予算の制約がある場合でも、調べる対象を絞るなどの工夫をしてDDを行うことが望ましい、とされています(p.48、p.97)。

今回は株式譲渡なので、簿外債務や偶発債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳しいDDが行われる傾向にあります(p.48)。従業員数は、この判断には使いません。

Q2. 工場の様子も見たいので、データルームを売り手の会議室に置くことにした。何に気をつける?

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M&Aのことを知っているのは社長と経理部長だけなので、窓や扉の開け閉めで会話が漏れたり、人の出入りから気づかれたりしないよう、利用時間の制限、受付の締切時間、入室の事前届出などの運用ルールを決めて徹底します(スキルマップp.86)。

現場の状況を知る必要がある場合(特に製造業など)は、物理的なデータルームにすることが多いとされています。

Q3. 規程類が整っていないことについて、売り手の支援者はいつ、何をする?

答えを見る

小規模な企業は会計帳簿や規程類が整っていないことが多いので、早い時期から、求められそうな書類やデータの整備を促す必要があります(ガイドラインp.95、スキルマップp.87)。

DDが始まってから慌てると、買い手に不信感を与えかねません。

まとめ

  • デューデリジェンス(DD)は、主に買い手が専門家に頼んで、売り手の財務・法務・ビジネス・税務などの実態とリスクを調べる工程。どの調査をするかは買い手の意向で決まる
  • 買い手にとっては、M&Aをするか、譲渡額・表明保証・補償をどうするかを決める材料で、PMIの情報にもなる。売り手にとっては、調査が不十分だと表明保証などの負担が増えうる
  • 種類は財務・法務が中心で、税務・人事労務・ビジネス・知財・環境・不動産・ITなどもある。株式譲渡はより詳細になる傾向
  • 中小M&Aでは税務申告書とヒアリングだけで終えることもあるが、ヒアリングだけには限界がある。予算が限られても対象を絞って行うのが望ましい
  • 進め方は、方針の決定→体制の構築→データルームなどの準備→調査(依頼資料リスト・Q&A・インタビュー)。仲介者はDDを自ら行わず、結論も決めない

次回は、財務・税務DDで調べることを取り上げます。シリーズの一覧は事業承継・M&Aのまとめページにあります。

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