中小M&A資格試験とは?中小M&A資格試験の科目・出題割合・合格基準と、試験の土台になるスキルマップ

朝の光が入る木の机に、表紙に何も書かれていない深緑のハードカバーの本と鉛筆、白いコーヒーカップが置かれている

中小M&A資格試験は、中小企業のM&Aを支援する人に向けて、中小企業庁が新しく作る資格試験です。検討会の資料(現状案)では、M&A実務・財務税務・法務・倫理行動規範の4科目を、60問程度、CBT方式の120分で出題し、総得点の70〜80%程度を合格基準にする想定です。

この記事では、中小M&A資格試験ができる理由、試験の形式と科目ごとの出題割合、合格基準の考え方、そして試験の土台になる「スキルマップ」の中身を、中小企業庁の資料に沿って整理します。中小M&A資格試験に向けて、事業承継・M&Aの知識を順番に解説していくシリーズの2本目です(1本目は宮城県事業承継・引継ぎ支援センターの記事)。

目次

中小M&A資格試験とは

中小M&Aの市場が広がる一方で、十分な説明がないまま進んだ事案や、利益相反のある状態で進んだ事案、経営者保証が解除されないといった不適切な譲り受け側の問題が出てきました。中小企業庁は、中小M&Aの支援に必要な倫理観と知識を証明する資格として、中小M&A資格試験を実施します(中小企業庁「中小M&A資格試験実施事業」の公募)。試験の実施機関には、株式会社銀行研修社が選ばれています(採択結果、2026年5月1日)。

中小企業庁の「中小M&A市場の改革に向けた検討会(第4回)」の資料では、試験が求める水準を次のように整理しています(資料2、2026年3月17日)。

  • 仲介者・FAの案件担当者として、財務・税務と法務の基礎知識で論点を見極め、士業の専門家と連携できる
  • 中小M&Aガイドラインとスキルマップの倫理・行動規範を理解し、正しく判断できる
  • 一般的な社会人が、一定期間の学習で合格できる難易度

なお、士業の独占業務(弁護士法72条・税理士法52条)に踏み込まないことが前提です。法律や税金の専門的な判断は弁護士や税理士に任せ、論点に気づいてつなげる力が問われます。

初回の試験日は、2026年10月22日時点で、中小企業庁の資料では確認できませんでした。日程は、公式の試験案内で確かめてください。

試験の形式と科目ごとの出題割合

検討会の資料で示された試験の形式は、次のとおりです。資料3の試験科目の詳細には「あくまで来年度以降の試験実施に向けた現状案」と書かれていて、正式な試験案内で変わる可能性があります。

項目現状案
試験科目M&A実務(中小M&A市場の動向・中小企業政策を含む)、財務・税務、法務、倫理・行動規範の4科目
設問数60問程度
方式・時間CBT方式(パソコンで解く方式)で120分
実施のしかた一斉実施。立ち上げ期は年3回程度の受験機会を設ける想定
合格基準総得点の70〜80%程度。科目別の合格最低点も設ける想定
倫理・行動規範「禁忌肢」(選んだら失格になる選択肢)の設定も検討
中小M&A資格試験の科目と出題割合の図(現状案)。M&A実務35〜40%(21〜24問)、倫理・行動規範25%(15問程度)、財務・税務20〜23%(12〜14問)、法務17〜18%(10〜11問)。60問程度、CBT方式で120分、合格基準は総得点の70〜80%程度で科目別の最低点も設ける想定

出題割合は、M&A実務と倫理・行動規範が高く設定されています。財務・税務は税務を含むため、法務より高めです。4科目で問われることは、資料の「科目設置目的」で次のように説明されています。

  • M&A実務:最初の相談から完了後の統合(PMI)までの各段階の知識。中小M&A市場の動向と、事業承継の補助金・税制などの政策も含む
  • 財務・税務:M&Aに潜む財務・税務のリスクを理解し、公認会計士・税理士と連携するための基礎知識
  • 法務:会社法・民法・労働法・契約の基礎と、秘密保持・表明保証・クロージング条項などM&A特有の契約条件
  • 倫理・行動規範:善管注意義務、利益相反の防止、情報管理、法令遵守、広告・営業、反社会的勢力との関係排除などの考え方と禁止事項

クイズ:合格に必要な正解数

合格基準と科目別の最低点が、どう効くかを計算します。次の材料を使います(科目別の最低点の割合は、資料に数字がないため、この記事で置いた例です)。

  • 設問数:60問(1問1点とする)
  • 合格基準:総得点の70%
  • 倫理・行動規範の設問数:15問
  • 倫理・行動規範の科目別最低点:6割(例)
  • 試験時間:120分

Q1. 総得点で合格するには、最低何問の正解が必要?

答えを見る

42問です。60問×70%=42問です。合格基準が80%なら、60問×80%=48問になります。

試験時間は、この計算には使いません。

Q2. 倫理・行動規範で8問、ほかの3科目で45問すべて正解したら、合格?

答えを見る

不合格です。合計は53問で総得点の42問を超えていますが、倫理・行動規範の最低点は15問×6割=9問で、8問では届きません。

科目別の最低点があると、得意科目で稼いで苦手科目を補う、という解き方が通じません。とくに倫理・行動規範は、出題数が多いうえに禁忌肢も検討されているので、取りこぼせない科目です。

「禁忌肢」とは

禁忌肢は、選んだだけで支援者としての適性を疑われる選択肢のことです。倫理・行動規範の科目で設定が検討されていて、検討会では医師国家試験の禁忌肢が例に挙がりました。中小M&Aガイドラインに明らかに反する行為や、トラブルにつながる可能性がかなり高い行為を禁忌肢にする想定で、禁忌肢のある設問を複数設け、一定数を誤答したら不合格にする設計が考えられています。禁忌肢は、誤答を誘導するようなあいまいな内容ではなく、明確に問題がある内容とする想定です。作問やCBTの技術面で難しい場合は、倫理・行動規範の最低点を引き上げたり、配点を高くしたりする代わりの方法をとるとされています。

資料にはサンプル問題も載っています。要点をまとめると、次のような問題です。

  • あなたは仲介者。後継者のいないA社の社長が、第三者承継を考えている
  • 譲り受け側の候補B社は前向きなことを言っているが、A社の社長は「契約の後に揉めないか」と不安に思っている
  • 善管注意義務の観点で、最も適切な対応はどれか

Q3. 次のうち、禁忌肢(選んだら失格になる選択肢)はどれ?

  1. B社を調べた結果をA社に報告し、最終契約の前に、契約後・クロージング後に揉めそうなリスクを説明する
  2. B社の社長と反社会的勢力との交友を知っていたが、成約を優先して、A社の社長に伝えずに進める
  3. B社が出した資料と会社案内だけで判断し、追加の調査はしない
  4. A社への説明は手数料の計算方法と金額を中心にし、段階ごとのリスクの説明は省く
答えを見る

禁忌肢は2です。正解(最も適切な対応)は1で、3と4は通常の誤答です。

2は、中小M&Aガイドライン第2章の「仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策」に明らかに反する内容として、禁忌肢に設定されています。3と4も不十分な対応ですが、2は「成約のために依頼者に不利な事実を隠す」という、仲介者の立場の危うさがそのまま出た行為です。

試験の土台になる「スキルマップ」の3つの層

試験の土台は、中小企業庁が2025年4月にまとめた「中小M&A専門人材(個人)向け 使命、倫理・行動規範、知識スキルマップ」と、中小M&Aガイドライン(第3版)です。スキルマップは、M&Aの支援者に求められるものを3つの層に分けています。

層中身
使命(いちばん上)専門知識と高い倫理観で、依頼者と関係者に質の高いマッチングと着実なM&Aの実行を提供し、事業の継続・成長と国民経済の発展に貢献する
倫理・行動規範(真ん中)基本原則、善管注意義務・職業倫理、広告・営業、品位、法令等の遵守、情報管理、その他の禁止行為。初期案で48の項目
知識・スキル(いちばん下)知識はM&A実務・ビジネス・会計・法務・税務・情報の6つの観点、スキルは業務を進める力と関係者とやりとりする力の2つの観点。M&Aの8つの段階ごとに整理

知識・スキルは、M&Aの流れを8つの段階に分けて、段階ごとに必要なことを並べています。試験科目の詳細では、そのうち「特に重要度が高く、優先的に出題する項目」に●の印が付いています(資料3 試験科目詳細)。主なものを図にまとめました。

M&Aの8段階と、中小M&A資格試験で優先して出題される項目の図。事前相談、企業価値の評価、相手探し、意向表明・基本合意、買収前の調査、最終契約、取引の完了、完了後の統合の8段階と、それぞれの重要項目
  1. 事前相談:仲介とFAの違い、株式譲渡・事業譲渡・会社分割、秘密保持契約とアドバイザリー契約の重要事項説明
  2. 企業価値の評価:コストアプローチ(純資産から考える方法)と、金額の算定
  3. 相手探し(マッチング):企業概要書(IM)の作成と、不適切な譲り受け側に関する調査
  4. 意向表明・基本合意:基本合意書の内容を、譲り渡し側・譲り受け側に説明して確認する
  5. 買収前の調査(DD):DDの種類と、財務・税務、法務、人事・労務のDDで見つかる主な問題と対応
  6. 最終契約:経営者保証の扱い、譲渡額、表明保証、クロージング条項、リスク事項の説明
  7. 取引の完了(クロージング):クロージングの前提条件
  8. 完了後の統合(PMI):統合に必要な知識とスキル

8つの段階のほかに、M&A支援機関登録制度、事業承継・M&A補助金、事業承継・引継ぎ支援センターなどの制度と、簿記・決算書(PL・BS・CF)、株式譲渡の税金、役員退職金、会社法・民法・労働法の基礎も重要項目に入っています。決算書の読み方は、中小企業の財務分析の記事から順に読めます。

倫理・行動規範で押さえておきたい項目

倫理・行動規範は、出題数が15問程度と多く、禁忌肢も検討されている科目です。スキルマップの48項目は、強制力のある規程ではなく、支援者が満たすべき要素を抜き出した「初期案」とされています。試験でそのまま問われるとは限りませんが、考え方の土台になるので、主な項目を分類ごとにまとめます。

分類主な項目(要約)
顧客利益の優先M&Aの成立だけを目的にせず、成立後の事業の成功につながる支援をする。顧客がセカンド・オピニオンを得るのを妨げない。契約を結ぶ前に、検討する時間を十分にとってもらう
利益相反の防止(仲介者)仲介者は自分が取引の当事者にならない。双方と契約する仲介者であることを書面で伝えて承諾をとる。企業価値の評価やDDの結論を仲介者が決めない
報告案件の進み具合を定期的に報告し、求められたらすぐに報告する
広告・営業うそや大げさな表示をしない。不確実なことを確実だと思わせない。「もう連絡しないで」と言われたら、すぐに営業をやめる
反社会的勢力取引を始める前に、不適切な顧客・関係者でないかを確かめる
情報管理顧客の情報を承諾なく使わない。仲介者は、一方の依頼者の不利益につながる情報を、善管注意義務から開示するか判断する。開示が難しいときは、支援をやめるなどの方法で守る

Q3の禁忌肢は、この表の「反社会的勢力」と「情報管理」の両方に反する行為です。表の項目を知っていれば、選ばずに済みます。

合格した後の登録制度(検討中)

中小M&A資格試験の合格者を登録して管理する制度も検討されています(第5回検討会 資料2、2026年7月21日)。

  • 登録の要件:試験に合格、倫理規程を守る誓約書の提出、登録講習の修了、欠格事由に当たらないこと
  • 登録の期間:3〜5年ごとの更新を想定。更新時にも講習
  • 公表:登録者検索システム(仮称)で氏名を公表。倫理規程に違反したら、氏名の公表や登録の取消し

また、M&A支援機関登録制度に登録する仲介者・FAに資格の取得を推奨すること、依頼者への重要事項の説明を資格を持つ人が行うことも、中小M&Aガイドラインの改訂で検討されています。政府の「稼ぐ力」強化戦略(2026年6月)にも、「中小M&A支援資格制度(仮称)」を早急に創設すると書かれています。

このシリーズの順番

このシリーズは、試験科目の一覧(現状案)を全部カバーするように、約40本で組んでいます。M&Aの8つの段階を順に進め、その合間に制度と、財務・税務、法務、倫理・行動規範の基礎を入れていきます。

科目本数主なテーマ
M&A実務(8つの段階)19本事業承継・引継ぎ支援センター、この記事、仲介とFA・利益相反、事前相談、M&Aの手法、秘密保持契約・仲介契約と重要事項説明、企業価値の評価、相手探し、不適切な譲り受け側、意向表明・基本合意、DD、最終契約、クロージング、PMI
中小M&A市場・中小企業政策6本市場の現状と関係する機関、中小企業の定義、M&A支援機関登録制度とガイドライン、事業承継・M&A補助金、事業承継税制、経営者保証ガイドライン
財務・税務8本簿記、決算書(PL・BS・CF)、税務会計、原価計算・資金管理、のれん・連結、M&Aの資金調達、M&Aにかかる税金、スキーム別の税務と役員退職金
法務5本会社法、民法、労働法、弁護士法と士業の独占業務、そのほかの法律と係争
倫理・行動規範3本48項目の要点(2本)、支援機関の基本姿勢と各段階の行動指針

公開したら、この表にリンクを足していきます。

まとめ

  • 中小M&A資格試験は、中小M&Aの支援者の倫理観と知識を証明する資格として、中小企業庁が新しく実施する試験。実施機関は銀行研修社
  • 現状案は4科目・60問程度・CBT方式で120分。合格基準は総得点の70〜80%程度で、科目別の最低点も設ける想定
  • 出題割合はM&A実務が35〜40%、倫理・行動規範が25%と高い。倫理・行動規範には禁忌肢も検討されている
  • 試験の土台は、使命・倫理行動規範・知識スキルの3層のスキルマップと、中小M&Aガイドライン(第3版)
  • 初回の試験日は中小企業庁の資料では未確認。公式の試験案内で確かめる

事業承継やM&Aを考える前の段階から、会社の数字を一緒に見る相手として、中小企業診断士の顧問を月3万円・定員3社でお受けしています。月1回の面談で数字を一緒に見て、次の一手を決めます。それ以外の日は、LINEでいつでも相談できます。

決算書を渡されたとき、診断士が最初に見る「5つの数字」

決算書のどこから、どの順番で見るかを、A4・3ページにまとめました。LINEで友だち追加すると、すぐに届きます(無料)。
すでに友だちの方は、トークで「5つの数字」と送ると届きます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次