自社の決算書を見て、この数字は良いのか悪いのか。それを知りたくて「業界平均」を調べている方に向けて書いています。
先に結論を書きます。
業界平均は、下回ったらダメという合否の線ではありません。自社の数字の横に並べて、「なぜここだけ違うのか」を確かめるための目印です。
そして、平均と比べる前に比べておきたいものがあります。自社の計画と、自社の前年です。順に書きます。
業界平均を、見たことがない方がほとんどです
窓口で経営相談を受けていて感じるのは、自社の業種の平均値を知っている経営者の方は、ほとんどいないということです。
知らないのが普通だと思います。決算書は税理士さんが作り、税務署に出し、金融機関に渡して終わる。平均と比べる場面が、日々の経営の中にほとんどありません。
だから、自己資本比率が20%と言われても、それが高いのか低いのか判断がつかない。そこで業界平均を調べ始める、という流れはとても自然です。
結論:業界平均は、理由を確かめるための目印です
私は、決算書から出した指標の横に、業界平均を並べます。ただ、平均より高い・低いを見て、すぐに良い悪いを決めることはしません。
平均から外れている数字には、たいてい理由があります。その理由が、設備への投資だったり、その会社の強みだったりすることがあるからです。
ですから業界平均の使い道は、判定ではなく確認です。「ここが外れているのは、なぜですか」と聞くための目印、と言ったほうが近いと思います。
業種別の経営指標は、ここで見られます
業種別の平均値は、主に次の4つで見られます。大事なのは右から2列目の「誰の数字か」です。
| 名前 | 出しているところ | 誰の数字か | 見られるか |
|---|---|---|---|
| 小企業の経営指標調査 | 日本政策金融公庫 | 公庫(国民生活事業)が融資した法人。従業者50人未満 | 無料(PDF) |
| TKC経営指標(BAST) | TKC全国会 | TKC会員の税理士・会計士が関与する企業。26万社超・1,201業種 | 原則、TKC会員と覚書を結んだ金融機関向け。速報版は公開 |
| 中小企業実態基本調査 | 中小企業庁 | 全国の中小企業を対象にした調査 | 無料 |
| 法人企業統計 | 財務省 | 資本金の規模別に集計した法人の統計 | 無料 |
宮城県の建設業の方には、公庫の調査が使いやすいと思います。建設業のうち土木工事業や建築工事業など5つの業種は、東北などの地域別にも数字が出ています(2024年度調査)。
ひとつ注意があります。検索すると上位に、中小企業庁の「業種別主要計数表」というページが出てきます。これは平成11年の調査のページです。この「中小企業の経営指標」という調査は平成15年で終わっていて、中小企業庁は「平成16年以降については、中小企業実態基本調査をご参照ください」と案内しています(中小企業庁)。表を見るときは、何年の数字かを必ず確かめてください。
平均から外れていたら、まず確かめること
ここからが、業界平均の本当の使いどころです。外れた指標を見つけたら、次の順で確かめます。
外れた裏に、投資がないか
前の期に機械を入れた会社は、総資産が膨らみ、借入も増えます。すると、持っている資産でどれだけ稼いだかを示すROA(総資本経常利益率)も、自己資本比率も、平均より低く出やすくなります。
でもそれは、投資を回収している途中の姿かもしれません。見るべきは、その設備が売上や粗利を生み始めているかどうかです。
強みが、数字に出ていないか
粗利率が業種の平均より高いなら、値付けや商品に力があるのかもしれません。人件費の比率が高いのも、腕のいい職人を抱えている表れのことがあります。
平均に寄せようとして、強みまで削ってしまっては逆効果です。上の2つは、よくある例として挙げました。会社ごとに理由は違います。
それでも理由が見つからない差が、本当の課題です
投資でも強みでも説明がつかない。そういう指標が見つかったら、そこから手を付けます。業界平均がいちばん役に立つのは、この「説明のつかない差」を見つけるときだと思います。
平均値をそのまま信じないほうがいい理由
集計している会社が違う
上の表のとおり、公庫は自分の融資先、TKCは会員の会計事務所が関与する企業、中小企業庁と財務省は全国を対象にした統計です。同じ業種の「平均」でも、元になっている会社の集まりが違います。
計算のしかたも違います。公庫の平均値は、1社ずつの指標を足して社数で割った単純平均です(利用の手引き)。中小企業実態基本調査の経営指標は、全産業の加重平均値として公表されています(令和5年速報)。数字が合わないのは、どちらかが間違っているからではありません。
規模も地域も混ざっている
公庫の調査は、従業者数で1〜4人、5〜9人、10〜19人、20〜49人と分けた数字も載せています(建設業は売上高の規模別)。自社に近い規模の欄を見るだけで、印象がかなり変わることがあります。
平均は、真ん中の会社の値ではない
公庫の調査は、平均値と中央値を並べて載せています。その理由を、手引きはこう書いています。
サンプルの中に著しく大きい、または小さい値が含まれる場合や、サンプルの分布の裾野が片側に長い場合、単純平均はぶれやすくなる。
日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査 利用の手引き」
とても儲かっている会社が1社混ざるだけで、平均はほかのどの会社よりも上に引っぱられることがあります。平均と中央値が大きく離れていたら、中央値のほうを見たほうが実態に近いと思います。赤字の会社を除いた「黒字かつ自己資本プラス企業」の平均も載っているので、目指す水準を考えるときはそちらも参考になります。
いちばん先に比べるのは、自社の計画と前年です
予実管理で比べていたのは、自社の数字でした
私は学習塾の経営企画部で、中期経営計画の策定と予実管理を担当していました。そのとき比べていたのは、自社の計画と、自社の実績です。
計画は、自社の事情を全部わかったうえで立てた数字です。だから、ずれたときに原因を追いやすい。業界平均は、自社の事情を何も知らない数字です。役割が違います。
同じ指標を3期並べて、方向を見る
決算書を渡されたとき、私は貸借対照表から見ます。現預金、流動比率、借入金と自己資本比率、固定資産。そのあと損益計算書を、当期純利益から粗利へと下から上に見て、最後にROAを見ます。
そのうえで、同じ指標を3期分並べてみてください。良くなっているのか、悪くなっているのか。方向がわかれば、平均と比べる前に打つ手が見えてくることが多いです。業界平均は、その横に置く1列という位置づけです。
財務分析の全体の考え方は、中小企業向け 財務分析の勘所と考え方にまとめています。
まとめ
- 業界平均は、下回ったらダメという合否の線ではなく、理由を確かめるための目印
- 業種別の平均値は、公庫・TKC・中小企業庁・財務省で見られる。ただし「誰の数字か」がそれぞれ違う
- 検索上位に出る中小企業庁の「業種別主要計数表」は平成11年の調査。何年の数字かを必ず確かめる
- 平均から外れていたら、まず投資と強みを確かめる。説明のつかない差が本当の課題
- いちばん先に比べるのは、自社の計画と前年。同じ指標を3期並べて方向を見る
平均は、自社の数字を読むための補助線です。主役は、あくまで自社の数字だと思っています。
この記事で書いた「外れた数字の理由を確かめる」作業は、一度やって終わりではなく、毎月の数字で続けていくものです。
その「毎月いっしょに見る相手」として、中小企業診断士の顧問を月3万円・定員3社でお受けしています。月1回の面談で数字を一緒に見て、次の一手を決めます。それ以外の日は、LINEでいつでも相談できます。
よくある質問
Q. 業界平均は無料で見られますか
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」は、業種ごとのPDFが無料で公開されています。中小企業庁の中小企業実態基本調査、財務省の法人企業統計も無料です。TKC経営指標は原則TKC会員と金融機関向けで、一般に公開されているのは速報版です。
Q. どの平均と比べればいいですか
従業者50人未満の会社なら、まず公庫の調査で、自社の業種と、近い従業者規模の欄を見るのがよいと思います。平均値と中央値が離れていたら、中央値を目安にします。
Q. 平均より悪い指標がたくさんあります
一度に全部を直そうとしなくて大丈夫です。まず3期並べて、悪くなり続けているものを探します。そのうえで、投資や強みで説明がつくものを外し、残ったものから手を付けます。

