売上がいちばん大きい取引先は、会社にとっていちばん大事な取引先でしょうか。
当社の売上が同じ年間1億円の取引先が、2社あるとします。X社は年間20億円を発注していて、そのうち当社が1億円。Y社は年間1.5億円の発注のうち、当社が1億円です。当社から見た売上は同じでも、この2社に同じやり方で向き合ってよいかというと、話は変わってきます。
取引先を見る道具は2つあります。売上の大きい順に並べるABC分析と、相手の総発注量と自社の取り分で分ける顧客ポートフォリオです。私も支援先で、取引先のABC分析をしてきました。この記事では、ABC分析のやり方と、その弱点を顧客ポートフォリオで補う方法を、数字の例で書きます。
取引先のABC分析とは:売上の大きい順に並べて3つに分ける
ABC分析は、取引先を売上の大きい順に並べて、A・B・Cの3つのグループに分ける方法です。商品の在庫管理でもよく使われますが、取引先にもそのまま使えます。
「売上の8割は、2割の取引先から生まれる」というパレートの法則があるように、売上は上位の少ない取引先に偏っていることが少なくありません。どこに偏っているかを、数字で確かめるのがABC分析です。
やり方(4つの手順)
- 前の期の取引先別の売上を、大きい順に並べる
- 売上構成比を出す(その取引先の売上÷売上の合計)
- 累計構成比を出す(上から順に、構成比を足していく)
- 累計構成比で、A・B・Cに分ける
分ける線に決まりはありません。この記事では、累計構成比80%までをA、95%までをB、残りをCとしました。

例の会社は取引先10社で、売上の合計は1億円です。上位3社(A社・B社・C社)で、売上の77%を占めています。
売上だけでなく、粗利でも並べる
表のいちばん右の2列は、取引先ごとの粗利と、その順位です。
B社は売上2,500万円で2位ですが、粗利率は10%で、粗利は250万円です。粗利で並べ直すと、5位まで下がります。売上はC社の2倍以上あるのに、粗利はC社の300万円より少ない取引先です。
売上の順位と粗利の順位がずれる取引先には、値引きや、手間のかかる取引条件が重なっていることがあります。取引先ごとの粗利から、その取引先だけにかかる費用まで引くと、貢献利益が出ます。考え方は貢献利益の記事に書きました。
ABC分析の弱点:自社の中の数字しか見ていない
ABC分析でわかるのは、当社がその取引先にいくら売っているか、です。相手がその品目を全体でどれだけ買っていて、そのうち当社が何割を取れているかは、わかりません。
冒頭のX社とY社は、ABC分析ではどちらも「1億円の取引先」です。でも、X社にはまだ19億円ぶんの発注が残っていて、Y社にはほとんど残っていません。伸ばせる余地は、まったく違います。
顧客ポートフォリオ:相手の総発注量×自社の取り分で4つに分ける
そこで使うのが、顧客ポートフォリオです。取引先を、相手の総発注量(その品目を年間どれだけ買っているか)と、そのうち自社が取れている割合(顧客内シェア)の2つで、4つに分けます。
- 拡大顧客:総発注は多い・自社の取り分は小さい。取り分を広げる余地がいちばん大きい
- 発展顧客:総発注は多い・自社の取り分も大きい。今の関係を守りながら育てる
- 維持顧客:総発注は少ない・自社の取り分は大きい。これ以上の伸びは小さい
- 成り行き顧客(要検討):総発注は少ない・自社の取り分も小さい。これからどうするかを考える

例の会社では、C社とE社が拡大顧客です。C社は総発注2億円のうち当社は1,200万円(6%)、E社は1億円のうち500万円(5%)です。E社はABC分析ではBランクですが、取り分を5%から10%に広げるだけで、売上は500万円増えます。
反対に、売上2位のB社は維持顧客です。総発注2,800万円のうち、当社がすでに2,500万円(89%)を取っています。ここに営業の時間をさらにかけても、伸ばせる余地は300万円しかありません。しかも粗利は5位の取引先です。
相手の総発注量の見当のつけ方
相手の総発注量は、正確にはわかりません。桁が合っていれば十分です。
- 取引先の担当者に、その品目を年間どのくらい使っているかを聞く
- 相手の売上や店舗数、従業員数から見当をつける
- 規模の近いほかの取引先と比べて見当をつける
人と時間は、均等ではなく選んで配る
営業に使える人と時間には、限りがあります。すべての取引先に同じだけ時間をかけるのではなく、どこに寄せるかを決めます。
ABC分析で今の売上と粗利の大きさを見て、顧客ポートフォリオでこれから伸びる余地を見る。2つを重ねると、「守る取引先」と「取りにいく取引先」が分けられます。例の会社なら、A社は守る、C社とE社は取りにいく、B社は手間をかけすぎずに取引条件を見直す、という分け方になります。
今週やること
- 前の期の取引先別の売上を、大きい順に並べる
- 構成比と累計構成比を出して、A・B・Cに分ける
- 取引先ごとの粗利も出して、売上の順位とのずれを見る
- 上位の取引先と、伸びそうな取引先について、相手の総発注量の見当をつける
会社全体の売上の流れはZチャートの記事で、財務分析の全体の考え方は中小企業向け 財務分析の勘所と考え方で書いています。
まとめ
- 取引先のABC分析は、売上の大きい順に並べて、累計構成比でA・B・Cに分ける方法
- 売上だけでなく粗利でも並べると、順位が入れ替わる取引先が見つかる
- ABC分析では、相手の総発注量と自社の取り分は見えない
- 顧客ポートフォリオは、相手の総発注量×自社の取り分で、拡大・発展・維持・成り行きの4つに分ける
- 2つを重ねて、守る取引先と取りにいく取引先を決め、人と時間を寄せる
取引先の見直しは、一度やって終わりではなく、毎月の数字と営業の動きを見ながら続けていくものです。
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