価格転嫁は、材料費や電気代、人件費などのコストが上がったときに、その上がった分を売値に乗せることです。下請けの会社なら、取引先に加工賃や納品価格を上げてもらうことにあたります。
経済産業省の調査では、中小企業の価格転嫁率(コストの上がった分のうち、価格に乗せられた割合)は2026年3月時点で54.2%でした(経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」)。上がったコストのうち、売値に乗せられたのは半分を少し超える程度です。
ただ、値上げを受け入れてもらえたとしても、それで利益が守れたとは限りません。この記事では、価格転嫁できたかどうかを、粗利の増減を「単価」「原価」「数量」に分けて確かめる方法を説明します。例として、小さな町工場の数字を使います(数字は架空です)。
価格転嫁できたかは、粗利の増減で確かめる
粗利は、売上から材料費などの原価を引いた利益です。価格転嫁がうまくいったかどうかは、売上ではなく、粗利が前の年と比べてどう動いたかで見ます。
粗利の増減を分ける見方は2つあります。
- 売上と粗利率で分ける:売上の増減分=(今年の売上−前年の売上)×前年の粗利率、粗利率の増減分=(今年の粗利率−前年の粗利率)×今年の売上
- 単価・原価・数量で分ける:単価の増減分=(今年の単価−前年の単価)×今年の数量、原価の増減分=(今年の1個の原価−前年の1個の原価)×今年の数量をマイナスにしたもの、数量の増減分=(今年の数量−前年の数量)×前年の1個の粗利
1つ目は決算書の数字だけで計算できます。2つ目は1個あたりの単価と原価が分かれば計算でき、価格転嫁できたかがそのまま見えます。
町工場の数字で、粗利の増減を分けてみる
例の町工場は、金属部品の加工をしています。主な取引先1社から部品の加工を受けていて、前の年は1個500円の加工賃で、月に3,000個を納めていました。
今年は材料費と電気代が上がったので、取引先に加工賃の値上げをお願いしました。値上げは受け入れてもらえましたが、取引先は注文の一部を他の会社に回しました。
- 前年の加工賃:1個500円
- 前年の数量:月3,000個
- 前年の1個の原価(材料費200円+電気代20円):220円
- 今年の加工賃:1個540円
- 今年の数量:月2,850個
- 今年の1個の原価(材料費230円+電気代30円):260円
- 従業員:3人
Q1. 今年の月の粗利は、前年から何円増えた(減った)?
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4.2万円減りました。前年の粗利は(500円−220円)×3,000個=84万円、今年の粗利は(540円−260円)×2,850個=79.8万円です。
加工賃を40円上げてもらい、売上は150万円から153.9万円に増えたのに、粗利は減っています。従業員の人数は、ここでは計算に使いません。
この4.2万円の減り方を、単価・原価・数量に分けます。使う数字はQ1と同じです。
- 単価の増減分=(今年の単価−前年の単価)×今年の数量
- 原価の増減分=(今年の1個の原価−前年の1個の原価)×今年の数量をマイナスにしたもの
- 数量の増減分=(今年の数量−前年の数量)×前年の1個の粗利(500円−220円=280円)
Q2. 単価・原価・数量の増減分は、それぞれいくら?
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単価の増減分は、(540円−500円)×2,850個=プラス11.4万円です。
原価の増減分は、(260円−220円)×2,850個=11.4万円をマイナスにして、マイナス11.4万円です。
数量の増減分は、(2,850個−3,000個)×280円=マイナス4.2万円です。
合計はプラス11.4万円−11.4万円−4.2万円=マイナス4.2万円で、Q1の答えと一致します。

単価の増減分と原価の増減分は、ちょうど打ち消し合っています。上がった原価の40円を、そのまま加工賃に乗せられたからです。この意味では、価格転嫁はできています。粗利が減ったのは、数量が減った分です。
同じ4.2万円の減少を、売上と粗利率で分けると、次のようになります。
- 売上の増減分:(153.9万円−150万円)×前年の粗利率56%=プラス2.2万円
- 粗利率の増減分:(51.9%−56%)×今年の売上153.9万円=マイナス6.4万円

こちらの見方では、粗利率が56%から51.9%に下がったことが目立ちます。上がった原価と同じ金額だけ値上げすると、粗利の額は1個あたり変わりませんが、売値が上がった分、粗利率は下がります。粗利率だけを見ていると「転嫁できていない」と見えてしまうので、単価・原価・数量の3つに分けて確かめます。
売上は増えたのに利益が減る「増収減益」の見方は、増収減益の原因を探す記事でも説明しています。
いくら上げてもらえば転嫁になるか、数量は何%減っても大丈夫か
値上げをお願いする前に、何を守るのかで、必要な加工賃が変わります。例の町工場(今年の1個の原価260円)で、4つの目標を比べます。
| 守りたいもの | 必要な加工賃 | 値上げ幅 |
|---|---|---|
| 1個あたりの粗利(280円) | 540円 | +40円(+8%) |
| 月の粗利84万円(数量が5%減って2,850個になる場合) | 555円 | +55円(+11%) |
| 月の粗利87万円(賃上げで人件費が月3万円増える分も含める場合、数量2,850個) | 566円 | +66円(+13.2%) |
| 粗利率56% | 591円 | +91円(+18.2%) |
人件費や家賃などの固定費が上がった分は、1個の原価には出てきません。固定費の上がった分も粗利で賄う必要があるので、守りたい粗利の額にその分を足して考えます。賃上げと付加価値の関係は、労働分配率の記事で説明しています。
逆に、値上げしたあとで数量が何%まで減っても粗利を守れるかも計算できます。
- 今年の1個の原価:260円
- 守りたい月の粗利:84万円
- 取引先に提示する加工賃:1個560円
- 前年の数量:月3,000個
Q3. 加工賃を560円にしてもらえたら、数量は月何個まで減っても粗利84万円を守れる?
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月2,800個までです。1個の粗利は560円−260円=300円なので、84万円÷300円=2,800個です。
前年の3,000個から200個、約6.7%減っても、粗利は前年と同じです。数量がこれより減りそうなら、加工賃をもっと上げてもらうか、原価を下げる手を考えます。
値上げと数量、原価の関係は、変動損益計算書と損益分岐点の記事でも、利益を増やす4つの打ち手として説明しています。
取引先に値上げをお願いするときの材料
取引先にお願いするときは、コストがどれだけ上がったかを、数字で見せられるように準備します。中小企業庁も、価格転嫁が必要な理由をはっきり示すことを含めて、しっかり準備することが大切だとしています(中小企業庁「価格交渉・転嫁の支援ツール」)。準備に使える公的な材料は次のとおりです。
- コストの上がり方を示す公表資料:材料費は日本銀行の企業物価指数、労務費は地域別最低賃金など、根拠に使える公表資料の例を中小企業庁がまとめています(根拠となる公表資料(例))
- 目指す取引価格の試算:中小機構の価格転嫁検討ツールは、登録不要・無料で、コストが上がる前と後の決算書などから、商品別(取引先別)の収支と目指すべき取引価格を試算できます
- 交渉の申し込み:中小企業庁の支援ツールのページに、「コスト費目別価格交渉フォーマット(例)」や「価格交渉ハンドブック」が載っています
- 相談先:全国47都道府県のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」があり、価格交渉の基礎や原価計算の手法の習得を支援しています
労務費の上昇分を乗せてもらうときは、公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」も確かめておきます。受注する側は、根拠資料に公表資料を使い、自分から発注者に価格転嫁を求めること、交渉の記録を残して双方で保管することが求められています。指針は、コストの上がった分を反映せずに取引価格を据え置くことが、独占禁止法や中小受託取引適正化法の上で問題になるおそれがあることにも触れています。
値上げのお願いは、時期も考えます。経済産業省によると、価格の改定は4月と10月に行う会社が比較的多く、その前の3月と9月が「価格交渉促進月間」になっています。
支援の中で見てきたこと
私も支援の中で、値上げ・価格転嫁を打ち手として勧めてきました。値上げをお願いする前には、数量が何%減っても粗利が守れるかを支援先と一緒に計算し、取引先に値上げをお願いするための資料も一緒に作ってきました。
値上げの話をするとき、気になるのは「取引先が離れてしまわないか」です。だからこそ、上の表のように「何を守るために、いくら必要か」と「数量が何%減るまでなら大丈夫か」を先に数字にしておくと、交渉の場で引き下がる線もはっきりします。
今週やること
- 主な取引先ごとに、前年と今年の単価・数量・1個の原価を書き出す
- 粗利の増減を、単価・原価・数量の3つに分けて計算する
- 守りたいもの(1個の粗利、月の粗利、粗利率)を決めて、必要な単価を出す
- 値上げ後に数量が何%減っても大丈夫かを計算する
- コストの上がり方を示す公表資料を集めて、お願いする資料にまとめる
財務分析の全体の考え方は、中小企業向け 財務分析の勘所と考え方にまとめています。
まとめ
- 価格転嫁は、上がったコストを売値に乗せること。2026年3月時点の中小企業の価格転嫁率は54.2%
- 価格転嫁できたかは、粗利の増減を単価・原価・数量の3つに分けて確かめる
- 上がった原価と同じ金額だけ値上げすると、1個の粗利は守れるが、粗利率は下がる。数量が減れば、月の粗利も減る
- 値上げの前に「何を守るか」を決めて必要な単価を出し、数量が何%減っても大丈夫かも計算しておく
- 取引先へのお願いには、公表資料や中小機構の価格転嫁検討ツール、よろず支援拠点の価格転嫁サポート窓口が使える
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